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私とLPB 第19回

(この記事は、2019年5月22日にメルマガで配信されました。)
第19回目は東芝デバイス&ストレージ(株)の岡野さんです。では、岡野さんよろしくお願いします。

令和新年明けましておめでとうございます。東芝デバイス&ストレージ(株)の岡野です。

普段はいつも酔い潰れ、あまりLPBに対して真面目に語ったことがなかったので、せっかくの機会ですし、私とLPBについて少し
真面目に書きたいと思います。最後あたりはLPB-SC(*1)メンバー向けの内容となっておりますがお付き合い下さい。

 現在私は、東芝の半導体事業部に所属しておりますが、LPB-SCに参画した当初(2009年)はノートPCを中心とするデジタル
プロダクツ事業部に在籍していました。
当時はまだパソコン事業が好調で、会社も非常に活況でした。社内は売上高が重視され、キャッシュフローを如何に速く回し、
質より量で稼ぐかが問われ、海外の工場を積極的に使い始めた時代でもありました。
私の業務は、入社当初(2000年頃)から3名で細々と電気シミュレーションをしていたのですが、なかなか日の目を見ず、海外の
工場活用が盛んになるにつれ、次第に海外生産拠点を結ぶPDM/PLM(*2)のシステム構築業務へと変わっていきました。効率的
なBOM(*3)の在り方や設計変更管理の改善などに携わり、これはこれで生産に直結するため非常に面白い業務でしたが、一方で
電子工学を学んできた自分としては技術的な物足らなさを感じていたため、会社に問題視されない範囲でシミュレーション業務も
続けていました。
 そのようなPDM/PLM業務とシミュレーション業務の掛け持ちが何年か続くと、自然とこれら2つの業務をどうにか関連付けれ
ないかと考えるようになり、シミュレーションでBOMコストを改善したいという発想に変わっていきました。それまで自分はシミュ
レーションの精度ばかりに目がいき、結果が出た頃には試作が終わることもしばしばあったのですが、それがシミュレーション業務
の日の目を見ない原因の一つであることに気付いた時でもありました。
 当時当社ではノートPCを年間約1000万台出荷していました。もしシミュレーションで1基板あたりBOMコストを10円安くでき
れば、単純計算で1億円のコストダウンに繋がります。これまでシミュレーションは設計の後戻り防止に有効であると謳ってきた
ので、この発想は少なくとも私の中で斬新なものでした。ただノートPCはインテルの設計ガイドをベースに設計されているため、
そこからBOMコストを下げるとなると、設計ガイドを逸脱することになります。ここをシミュレーションで担保できないかと考えました。
設計ガイドは必ずマージンを持っています。そのため、設計ガイドの根拠を我々なりに理解し、再現させ、その上でマージンを削
れば、品質を維持したままコストダウンできるのではないか。ただ、それを実現するためにはどうしてもLSIをモデル化する必要
がありました。
 そこでようやくLPBに繋がってくる訳ですが、当時から当社の半導体事業部でEDA活動をされていた福場さん、冨島さん、青木
さんと知り合い、LSIのモデル化活動を始めました。その後の詳細は割愛しますが、その成果(裏付け)もあり、ノイズ対策部品の
デカップリングコンデンサを削減し、当時1基板あたり約20円ほどBOMコストを下げることに成功しました。
 当然この技術を当社の半導体事業にも生かせないかと考える訳ですが、半導体部門はさまざまなお客様を相手とするため、
これらの考えを一般化させる必要があります。そこで業界標準化活動を始めた福場さんから、セット側として参加して欲しいとお誘い
を受けJEITAのLPB-SCへ参加したのが、私のLPBとの関わりの始まりです。参画した当時、メンバーは半導体ベンダーの
方々が殆どで、単語を含め主張したいことの殆どが理解できませんでした。聞こえてくるのは、“これはノウハウ”、“あれもノウハウ”。
これではいつまでたっても標準化なぞできる訳ないと絶望したものです。おそらく当時のメンバー全員がそれぞれの立場で同じ
ように感じていたのではないかと思います。
それでも1年あまり議論を続け、単語の意味や何がノウハウなのかを紐解いていくと、まさにこの紐解いたところに標準化の
必要性があることに気づいたのです。すなわち、LSI、PKG、PCBの各設計自体はこれまで通りノウハウとして競争領域とし、
今回紐解いたノウハウとノウハウの繋ぎ、言い換えれば、各設計前後の入出力を協調領域として標準化するというものでした。
これにより意思伝達の解釈ミスがなくなり、情報の流通性を上げつつ、各設計情報をブラックボックス化することができる、こうして
生まれたのがLPBフォーマット(*4)です。その後は普及活動の成果もあり、様々なCAD/CAEツールが本フォーマットに対応して
頂くようになりました。また当社では社内の内製ツールも本フォーマットに対応させ、社内外のツールのシームレス化を進めており
ます。
 上のノートPC事例でも書いた通り、LPB相互設計は、相手方の意図を理解しその上でマージンを削れば、工期・品質を維持した
ままコストを下げることが可能です。そのお互いの意図を理解する手段としてLPBフォーマットの活用が広がれば良いなと思って
おります。そういう意味で、LPBフォーマットを単なるCAD/CAEツールを繋ぐインターフェイスと考えると、本来の意義を見誤ります。
また範囲もLPBだけと視野が狭くなってしまいます。これまで議論した相互設計というのは何もLPBの世界に限ったものではあり
ません。今トレンドのシステム・製品全体を対象としたMBD(*5)でも同じです。
 現在、様々なところでMBDの実用化に向けた取り組みが行われており、LPB-SCも“モデルベース・システム設計ワーキング
グループ“を立ち上げようとしていますが、これまで我々がLPBフォーマットを作成する過程で習得したアプローチを応用すれば、
きっと意義のあるものができると思っております。
 LPBフォーマットというのは、Cで枠を決め、Nで枠と枠の関係を定義し、GでCとNを具現化するというアプローチです。この考え
は別にCを部品単位で考えなくてもいいわけです。モジュールやプラントをCにして、それらをNで繋げばMBDの考えになるわけ
です。すなわち、MBDはLPBの考え方そのものだと思っています。どちらかというとLPBはMBSEの方が近いかも知れませんが。
その意義をしっかり皆さんと共有し発展させていければ、LPBはまた新しい世界が待っているものと確信しております。
一緒に盛り上げていきましょう。

*1 LPB-SC      : JEITA半導体&システム設計技術委員会の中、LSI-Package-Board(LPB)相互設計の在り方を議論するコミッティ
*2 PDM/PLM     : Product Data Management/Product Lifecycle Managementの略。製品の設計・開発・製造・保守など、製品のライフサイクル全体を通して、製品関連情報を一元管理する考え方とそのシステム
*3 BOM        : Bills of materialsの略。製品を構成する部品表。それに付随するドキュメントやコスト・品質情報が紐づけられている。
*4 LPBフォーマット : LPB-SCで策定した、設計に必要な情報や設計結果を流通させる為の国際標準規格(IEC 63055/IEEE2401-2015)。M、N、C、R、Gの5つのフォーマットから構成されている。
               詳細はhttp://jeita-sdtc.com/committee-activity/lpbintrface-wg/jeita-lpb-stdformat/を参照。
*5 MBD        : モデルベース開発(Model Based Development)の略。モデルをベースに、システム・製品全体を俯瞰した設計を具現化し、設計上流段階から適用可能な考え方・手法。

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